DISCLOSURE / 企業のサステナ開示
企業のESG開示は2027年3月期から「基準つき」に|SSBJ基準は時価総額3兆円以上のプライム企業から義務化
本記事は2026年10月30日時点で金融庁が公表している資料をもとにした情報提供であり、特定の金融商品・銘柄の勧誘・推奨ではありません。投資信託は元本が保証されず、株価や為替の変動で損失が出ることがあります。制度の細部や適用時期は今後の改正で変わることがあるため、最新の情報は金融庁とサステナビリティ基準委員会の公表資料をご確認ください。

結論から言うと、日本の大企業のサステナビリティ情報は、2027年3月期の有価証券報告書から、共通の基準に沿って書かれ始めます。金融庁は2026年2月20日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」を改正し、東京証券取引所プライム市場の会社のうち平均時価総額が1兆円以上の会社に、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の基準に従った開示を義務づけました。適用は原則2028年3月期からで、平均時価総額が3兆円以上の会社は1年早い2027年3月期からです。ESGファンドを選ぶ側から見ると、組み入れ先の会社の「環境や社会への取り組み」を、同じ物差しで比べやすくなる変化です。改正の中身を、金融庁の公表文から中立的に整理します。
何が義務になったのですか?
有価証券報告書の「サステナビリティに関する考え方及び取組」の欄を、SSBJ基準に従って書くことが義務になりました。これまでもこの欄はありましたが、何をどの粒度で書くかは会社ごとに幅がありました。改正後は、気候変動を含むサステナビリティ関連のリスクと機会を、決められた項目に沿って開示します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象の市場 | 東京証券取引所プライム市場(告示で指定) |
| 対象の会社 | 平均時価総額が1兆円以上の会社 |
| 従う基準 | サステナビリティ基準委員会が2026年2月20日までに公表したSSBJ基準(告示で指定) |
| 公布・施行 | 2026年2月20日 |
| パブリックコメント | 2025年11月26日〜12月26日、44の個人・団体から延べ213件 |
開示する項目の側も増えました。SSBJ基準で求められる事項に加えて、SSBJ基準に準拠していること、二段階開示や基準上の経過措置をどう使ったかも、有価証券報告書に書くことになります。読み手は、その会社がどの経過措置を使って、何を後回しにしたかを、開示そのものから知ることができます。
SSBJは、国際的な基準づくりを進める国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準と整合するように、日本の基準を作っている組織です。日本の大企業の開示が、海外の投資家が使う物差しに近づく、という意味もあります。
どの会社から、いつ始まるのですか?
適用は時価総額の大きさで2段階に分かれています。判定に使う「平均時価総額」は、その期の前の事業年度末と、さらにその前4事業年度末の、計5つの時価総額の平均です。

| 平均時価総額 | 判定の基準 | 適用される有価証券報告書 |
|---|---|---|
| 3兆円以上 | 2026年3月期末までの5期の平均 | 2027年3月31日以後に終わる事業年度から |
| 1兆円以上 | 前期末までの5期の平均 | 2028年3月31日以後に終わる事業年度から |
金融庁の例では、2027年3月期に適用されるかどうかは、2022年3月期から2026年3月期までの各期末の時価総額の平均で判定します。上場から5事業年度たっていない会社は、経過した事業年度の期末だけで平均を取る決まりです。1年ごとの株価の上下で対象が入れ替わりにくいよう、5年の平均にしている、と読めます。
なお、金融庁は、時価総額が1兆円未満の会社への広げ方は今後の制度整備で扱うとしています。この記事の時点で決まっているのは、1兆円以上までです。
最初の2年は、開示を後から出せるのですか?
出せます。改正附則で「二段階開示」という経過措置が設けられました。SSBJ基準を適用する最初の年度とその翌年度は、有価証券報告書の提出時にはSSBJ基準の情報を載せず、翌期の半期報告書の提出期限までに訂正報告書で追加することが認められています。
もう1つ、数字の書き直しの仕組みも加わりました。前の期の有価証券報告書で見積りの方法で出した数値について、あとで確定値が分かり、見積りと差が出た場合には、半期報告書に記載できるようになっています。排出量のように、決算の時点では確定していない数字が多い分野を前提にした手当てです。
たとえば3月決算の会社なら、有価証券報告書は6月ごろ、半期報告書の期限は11月ごろです。最初の2年は、サステナビリティ情報だけが半年ほど遅れて出てくる会社があってもおかしくありません。ESGファンドの組み入れ先を調べるとき、6月の有価証券報告書に情報が見当たらなければ、訂正報告書が出ていないかも確かめると確実です。
Scope3の数字は、なぜ特別扱いなのですか?

Scope3は、自社の工場や事務所の外、つまり取引先や製品の使用・廃棄の段階で出る温室効果ガスの排出量です。自社で測れる数字ではなく、多くの部分を推計で出すため、どうしても誤差が出ます。
そこで金融庁は、企業内容等開示ガイドラインに「セーフハーバー・ルール」を置きました。Scope3の定量情報について、差が出る要因や推論の過程、社内の開示手続が、一般に合理的と考えられる範囲で具体的に書かれていれば、虚偽記載等の責任を負うものではない、という考え方です。あわせて、将来情報やScope3の数字には、推論の過程と社内の手続の記載が求められます。
読み手の側から言えば、Scope3の数字そのものより、その横に書かれた「どう推計したか」の説明を読むことが大事になる、ということです。数字の大小だけで会社を比べると、推計の前提の違いを見落とします。
ESGファンドを選ぶ側にとって、何が変わるのですか?
ESGファンドは、組み入れる会社の環境・社会・ガバナンスへの取り組みを評価して銘柄を選びます。これまでは、会社ごとに開示の項目や粒度がそろっておらず、評価会社や運用会社が独自に情報を集めて補ってきました。共通の基準で書かれた開示が増えれば、同じ物差しで比べられる範囲が広がります。
一方で、開示がそろうことと、ESGファンドの中身が良くなることは別の話です。ファンドがどの会社をどんな基準で選んでいるかを、目論見書と運用報告書で確かめる必要がある点は変わりません。名前だけがESGで中身が伴わない「グリーンウォッシュ」を見抜く手順は、グリーンウォッシュの見抜き方の記事で整理しています。組み入れ先の開示が基準つきになることは、その手順の材料が増えることだと位置づけられます。

人的資本の開示も変わったのですか?
同じ改正で、人的資本の開示も広がりました。有価証券報告書の「従業員の状況」は第4の「提出会社の状況」に移り、新たに、連結ベースの企業戦略と結びつけた人材戦略、それを踏まえた従業員の給与等の決定方針、提出会社の従業員の平均給与の前年比の増減率を書くことが求められます。
ESGのうちS(社会)の評価では、従業員の待遇や人材への投資がよく使われます。平均給与の増減率が全社共通の欄に並ぶようになれば、ファンドの評価の材料としても使いやすくなるはずです。新NISAの対象になっているESGファンドの探し方は、新NISA対象のESGファンドの調べ方にまとめています。
よくある質問(FAQ)
- Q. SSBJ基準の開示は、いつから始まりますか?
- 平均時価総額が3兆円以上のプライム市場の会社は、2027年3月31日以後に終わる事業年度の有価証券報告書から適用されます。1兆円以上の会社は、2028年3月31日以後に終わる事業年度からです。
- Q. 平均時価総額はどう計算しますか?
- 対象の事業年度の前の事業年度末と、その前4事業年度末の時価総額の平均です。2027年3月期の判定なら、2022年3月期から2026年3月期までの5つの期末の平均を使います。
- Q. 最初の年から全部の情報が有価証券報告書に載りますか?
- 載らないことがあります。適用開始の年度とその翌年度は、翌期の半期報告書の提出期限までに訂正報告書で追加する「二段階開示」が認められています。
- Q. ESGファンドの選び方は変わりますか?
- 組み入れ先の会社の開示が共通の基準で比べやすくなります。ただし、ファンドが何を基準に銘柄を選んでいるかは、引き続き目論見書と運用報告書で確かめる必要があります。
- 金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』等の公布及びパブリックコメントの結果について」(2026年2月20日):https://www.fsa.go.jp/news/r7/shouken/20260220/20260220.html(対象・適用時期・二段階開示・Scope3・人的資本/2026年10月30日確認)
- 金融庁「『企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令』(案)等に対するパブリックコメントの実施について」(2025年11月26日):https://www.fsa.go.jp/news/r7/shouken/20251126/20251126.html
写真:Openverse(CC0・パブリックドメイン)