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そのESGファンドは実際に何へ反対したか|議決権行使結果の調べ方|2026年8月版

議決権行使公開:2026年8月29日最終更新:2026年8月29日文:凛

本記事は情報提供を目的とした解説であり、特定の金融商品の取得を勧誘するものではありません。投資信託は元本が保証された商品ではなく、組入資産の価格変動等により損失が生じるおそれがあります。本文中の条文および数値は2026年8月29日に金融庁および各運用会社の公式ページで確認したもので、コードの改訂や各社の基準変更によって内容は変わります。最新の情報は必ず公式資料でご確認ください。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。

結論から言うと、そのESGファンドが実際に何へ賛成し何へ反対したかは、運用会社が公表している議決権の行使結果で確かめられます。目論見書に書いてあるのは方針で、行使結果は実行したあとの記録です。根拠の日本版スチュワードシップ・コードは2014年2月26日の策定から3回改訂され、現行は2025年6月26日の第三次改訂版。個別の議案ごとの公表が求められた経緯と、資料のどこを見るか、賛否の数だけでは読めない範囲を中立的に整理します。

議決権行使結果とは、何ですか?

議決権行使結果とは、運用会社が投資先企業の株主総会で、議案ごとに賛成と反対のどちらを投じたかを、あとから公表した記録です。投資信託を通じて株式を持っていても、総会で票を投じるのは受益者ではなく委託会社、つまり運用会社です。どの議案にどう投じたのかを外から確かめる材料が、この公表資料になります。

公表を促しているのは、金融庁の日本版スチュワードシップ・コードでした。2014年2月26日に策定され、2017年5月29日、2020年3月24日、2025年6月26日と3回の改訂を経ました。議決権を定めているのは原則5です。

原則5 機関投資家は、議決権の行使と行使結果の公表について明確な方針を持つとともに、議決権行使の方針については、単に形式的な判断基準にとどまるのではなく、投資先企業の持続的成長に資するものとなるよう工夫すべきである。
(金融庁『「責任ある機関投資家」の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫(第三次改訂版)』より)

語尾に注目してください。コードは「すべきである」と書く原則主義の文書で、法令の義務ではありません。受け入れるかどうかは各機関の判断に委ねられ、実施しない原則があればその理由を説明する形が認められています。

受入れを表明した機関投資家の一覧も、金融庁が公表しています。第三次改訂への受入れを表明したのは295機関でした(2026年6月30日時点)。内訳は投信・投資顧問会社等が171機関、年金基金等が82機関。生命保険・損害保険会社26機関、信託銀行等6機関、その他(機関投資家向けサービス提供者等)10機関がこれに続きます。

同じページの354という数字は、2014年の策定時から第三次改訂までの間に一度でも受入れを表明した累計です。現在の受入数として使うと誤りになります。年金基金等の82機関には、285の企業年金が正会員として参加する企業年金スチュワードシップ推進協議会も1機関として含まれます(2026年5月31日時点)。機関数と、実際に関わる年金の数は一致しません。ファンドそのものの仕組みはESGファンドとは?仕組みと選び方の注意点で整理しています。

なぜ議決権の行使結果を見ると、ESGの実質に近づけるのですか?

目論見書に書かれているのが方針であるのに対し、行使結果は実際にとった行動の記録だからです。同じように環境や人権への配慮を掲げていても、社外取締役の人数が足りない会社の取締役選任議案へ賛成したのか反対したのか。結果の一覧を開いてはじめて分かります。

対象の範囲も広く取られています。指針5-1はこう書いていました。

5-1. 機関投資家は、すべての保有株式について議決権を行使するよう努めるべきであり、議決権の行使に当たっては、投資先企業の状況や当該企業との対話の内容等を踏まえた上で、議案に対する賛否を判断すべきである。

この一文は、指数に連動するパッシブ運用にも効きます。銘柄選択で意思を示せない運用でも、議決権は手元に残るからです。反対票の有無は、行使結果を開けば確認できます。

方針そのものの公表も、指針5-2が求めていました。方針と結果は別のページに置かれていることが多く、そろえて突き合わせると看板と中身のずれが見えてきます。手順はグリーンウォッシュを見抜く5つのチェックポイントにまとめました。

個別の議案ごとの開示は、いつから求められるようになったのですか?

2017年5月29日の第一次改訂からです。2014年2月26日の策定時の指針5-3には、個別の投資先企業と議案ごとに公表すべきだという文言がありませんでした。現行の指針5-3はこうです。

5-3. 機関投資家は、議決権の行使結果を、少なくとも議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきである。
  また、機関投資家がスチュワードシップ責任を果たすための方針に沿って適切に議決権を行使しているか否かについての可視性をさらに高める観点から、機関投資家は、議決権の行使結果を、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきである。それぞれの機関投資家の置かれた状況により、個別の投資先企業及び議案ごとに議決権の行使結果を公表することが必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきである。

落としてはいけない語が3つあります。「少なくとも」は、種類ごとの集計公表が下限だという意味。「すべきである」は義務ではないという意味。そして「必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明すべきである」の一文は、個別開示をしない選択肢が条文上まだ残っていることを示します。

指針5-3の変遷(金融庁が公表している各版の本文を対照。2026年8月29日確認)
種類ごとの集計公表個別の企業・議案ごとの公表集計に代わる方法での公表
策定版
2014年2月26日
「議案の主な種類ごとに」記載なし理由を説明したうえで可能と記載
第一次改訂版
2017年5月29日
少なくとも議案の主な種類ごとに」へ公表すべきという一文を新設。適切でない場合の理由説明も新設記載が残る
第三次改訂版
2025年6月26日
同左同左(本文は2020年3月24日の再改訂版から変更なし)該当する記載なし

解説記事を読むときの注意がもうひとつ。2017年の改訂では、個別開示を求める理由が脚注に書き足されました。

個別の議決権行使結果を公表した場合、賛否の結果のみに過度に関心が集まり、運用機関による形式的な議決権行使を助長するのではないかなどの懸念が指摘されている。
 しかし、運用機関は、自らが運用する資産の最終受益者に向けて、活動の透明性を高めていくことが重要である。さらに、我が国においては、金融グループ系列の運用機関が多く見られるところ、こうした運用機関において、議決権行使をめぐる利益相反への適切な対応がなされていない事例が多いのではないかとの懸念を払拭するためにも、個別の議決権行使結果を公表することが重要である。
(2017年改訂版の脚注15/2020年再改訂版の脚注23。現行の第三次改訂版では削除されています

この脚注は2025年の第三次改訂で消えました。現行の指針5-3には脚注番号そのものが付いていません。金融グループ系列の利益相反という説明は今も広く引用されますが、引くなら2017年から2020年までの版の記述だと添える必要があります。「現在のコードにはこう書かれている」は誤りです。

実際に、どこでどう調べればよいのですか?

探す場所は、ファンドの販売ページではなく運用会社のサイトです。確認した2社は、いずれもファンド別ではなく運用会社全体の集計として公表していました。順路は4段階です。

  1. 目論見書か月次レポートで、委託会社(運用会社)の名前を確認する
  2. その運用会社のサイトで「スチュワードシップ」「責任投資」といった項目を開く
  3. 議決権行使結果のページから、見たい期間のファイルを選ぶ
  4. 先頭の集計表で全体像をつかみ、そのあとに続く個別議案の一覧で気になる企業を探す

野村アセットマネジメントの2026年4月〜6月分は、218ページのPDFでした。同じ期間に1,374社を対象とし、会社提出議案13,668件と株主提出議案290件、合わせて13,958件について議決権を行使したと記載されています。冒頭には議案の分類ごとの集計表が置かれていました。

野村アセットマネジメントの会社提出議案・当社基準による議決権行使結果(2026年4月〜6月/同社公表PDFより抜粋。反対比率は同表の記載値)
議案分類賛成反対合計反対比率
取締役の選解任10,35783011,1877.4%
監査役の選解任615536687.9%
役員報酬40611051621.3%
退任役員の退職慰労金の支給2323494.1%
剰余金の処分839278663.1%
買収防衛策の導入・更新・廃止04343100.0%
合計12,5561,11213,6688.1%

全体の反対比率は8.1%でした。いっぽう退任役員の退職慰労金の支給は34件中32件が反対で94.1%、買収防衛策の導入・更新・廃止は43件すべてに反対して100.0%。件数が11,187件と最も多い取締役の選解任は、反対830件で7.4%にとどまります。株主提出議案は290件中260件が反対で、反対比率は89.7%と記載されていました。

5ページ目からは、個別議案の一覧が続きます。列は企業コード・企業名・総会種類・総会日・提案者・議案番号・議案分類・賛否・理由の9つ。たとえば先頭付近には「1301 極洋 定時 2026/06/24 会社 2.1 取締役の選解任 賛成 当社基準に則り賛成」という行が並びます。同社の一覧ページによれば、2017年1〜3月の行使実績から個別開示を始め、2019年10〜12月期以降は全議案の賛否の理由を開示しています。

集計の期間にコードの定めはなく、確認した2社でも切り方が違いました。野村アセットマネジメントは暦の四半期で、2026年4月1日から6月30日という区切り。三井住友トラスト・アセットマネジメントは個別議案を四半期ごとに公表しつつ、年度の集計は7月から翌年6月でまとめています。直近の年度集計は2025年7月〜2026年6月ぶんで、個別議案は2017年以降がPDFとCSVで置かれていました。

調べたのはこの2社だけです。ほかの運用会社が同じ形式とは限らないので、自分が持っているファンドの委託会社のページを開いてみてください。

反対票が多いファンドほど、ESGに真剣なのですか?

そう読むには早すぎます。反対の数は母数と基準に左右されますし、対話で解決した論点は賛否の欄に出てきません。コード本文が先に釘を刺しています。

3. また、スチュワードシップ責任を果たすための機関投資家の活動(以下、「スチュワードシップ活動」という。)において、議決権の行使は重要な要素ではあるものの、当該活動は単に議決権の行使のみを意味するものと理解すべきではない。スチュワードシップ活動は、機関投資家が、投資先企業の持続的成長に向けてスチュワードシップ責任を適切に果たすため、当該企業の状況を適切に把握することや、これを踏まえて当該企業と建設的な「目的を持った対話」(エンゲージメント)を行うことなどを含む、幅広い活動を指すものである。

対話の結果、社外取締役の増員が総会前に実現したとします。その議案には賛成票が投じられ、記録は「賛成」です。反対の少なさが、そのまま無関心を意味するわけではありません。

母数もあわせて見てください。買収防衛策の100.0%は43件に対する43件、取締役の選解任の7.4%は11,187件に対する830件。比率だけを並べると、43件のほうが大きな判断に見えてしまいます。

公表数字が、その運用会社の全行使とも限りません。野村アセットマネジメントの集計表には、次の注記が添えられていました。

注:上表は当社基準(下記3 に定義)により行使した結果です。これ以外に、顧客から提示された議決権行使基準(以下、「顧客基準」といいます。)により行使した場合もありますが、その結果は上表には含まれていません。

顧客基準による行使は集計の外側です。個別の一覧では、顧客基準の賛否が当社基準と異なる場合に議案の右端へ*印が付きます。注記の一文で集計の範囲が変わるので、表より先に注記を読むほうが安全です。

判断が自社だけで完結しているとも限りません。指針5-4は、議決権の行使を助言する会社のサービスを使う場合について、助言へ機械的に依拠せず自らの責任と判断のもとで行使すべきだとしています。利用しているなら、助言会社の名称とサービスの具体的な活用方法まで公表すべきだとも書かれています。どの程度が助言どおりかを示す統計は、今回見つけられていません。ここは数字で語れない部分です。

個別開示そのものも義務ではありません。見当たらないときは、まず理由の説明を探してみてください。基準のほうも動きます。野村アセットマネジメントの当社基準は2025年11月1日に改定されたと明記されており、去年の反対と今年の反対を同じものさしでは比べられません。

整理:反対比率を読むときの前提は4つ。①母数を併記する ②集計の対象範囲を注記で確かめる ③対話で解決した論点は賛否に出ない ④基準の改定時期を確認する。

結局、どの順番で確認すればよいですか?

順番を決めておくと迷いません。方針から入って結果へ降りる、が基本です。

  1. 目論見書で、ファンドの方針と委託会社の名前を確認する
  2. 運用会社のサイトで、議決権行使の方針を読む(指針5-2に基づく公表)
  3. 直近の行使結果ファイルを開き、まず集計表と注記を読む
  4. 個別議案の一覧で、気になる企業と議案を検索する
  5. 賛否の理由欄を読み、方針との整合を自分の言葉で説明できるか確かめる

1と2を飛ばして4から入ると、賛否の多寡だけが残ります。方針を先に読んでおけば、その反対が基準どおりの処理なのか例外的な判断なのかを見分けられます。議決権の行使結果は、ESGの実質をすべて映す鏡ではありません。それでも、方針と行動を突き合わせられる数少ない一次データです。

制度の枠組みのほうから確かめたい方は新NISA対象のESGファンドはどこで調べる?もあわせてどうぞ。

よくある質問(FAQ)

Q. 議決権行使結果はどこで公表されていますか?
ファンドの販売ページではなく、運用会社のサイトです。今回確認した野村アセットマネジメントと三井住友トラスト・アセットマネジメントの2社では、いずれもファンド別ではなく運用会社全体の集計として公表されていました。まず目論見書か月次レポートで委託会社の名前を確認し、その会社のサイトでスチュワードシップや責任投資といった項目から議決権行使結果のページへ進むのが早い順路です。
Q. 個別の議案ごとの開示はいつから求められるようになったのですか?
2017年5月29日の第一次改訂からです。2014年2月26日に策定された時点の指針5-3には、議案の主な種類ごとに整理・集計して公表すべきという記述はありましたが、個別の投資先企業及び議案ごとに公表すべきという一文はありませんでした。現行は2025年6月26日の第三次改訂版で、指針5-3の本文は2020年3月24日の再改訂版から変わっていません。
Q. 反対票が多い運用会社ほどESGに積極的といえますか?
そう読むには早すぎます。コード本文は、議決権の行使は重要な要素ではあるものの、スチュワードシップ活動は単に議決権の行使のみを意味するものと理解すべきではない、としています。対話で解決した論点は賛成票として記録されます。また反対比率は母数で見え方が変わり、野村アセットマネジメントの2026年4月〜6月の集計では買収防衛策の導入・更新・廃止が43件中43件で100.0%、取締役の選解任が11,187件中830件で7.4%でした。
Q. スチュワードシップ・コードを受け入れている機関はどのくらいありますか?
金融庁の公表によると、第三次改訂に受入れを表明したのは295機関です(2026年6月30日時点)。内訳は投信・投資顧問会社等171、年金基金等82、生命保険・損害保険会社26、信託銀行等6、その他(機関投資家向けサービス提供者等)10。同じページにある354という数字は2014年の策定時から第三次改訂までに一度でも受入れを表明した累計なので、現在の受入数として使えません。
参考にした一次情報(すべて2026年8月29日に確認)
ESGファンドラボ リサーチ担当

サステナブル投資のリサーチを担当。ESG・環境・社会課題と投資の関わりを、中立的な視点でわかりやすくお届けします。数値は執筆時点の公式情報に基づき、投資判断は自己責任でお願いします。

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